ちょっと緊張した面持ちで、ふたりが教会に現れました。
胸には、2か月になったばかりの可愛らしい女の子がすやすや眠るクリッブを抱えています。
「1週間後でたいへん急なんですが、先生、お越しいただけますか?」と、彼が口火を切りました。
「義父が、『パーティだけでもしたらいいよ』と言って、場所を用意してくれました。
そこを使ってウエディングパーティができるよう、今、友人たちが準備をしてくれています。70人くらいが集まる予定です。
でも、せっかくみんなが集まってくれるなら、そこで「誓い」だけでもしたいと思って、昨日牧師先生にお電話を差し上げたんです。
正直、そんな結婚式なんて聞いたことがないので、ご相談自体失礼かとも思いましたが、気軽にわたしたちの話に応じていただけたので、心底ホッとしました。
彼女のためにも、そして自分のためにも、みんなの前でちゃんと結婚を誓いたかったのです」
とてもさわやかな好青年でした。彼の真摯な話を聞きながら、わたしにできることならば、ふたりのためだけの「誓約式」、そして「誓約文」を作ってあげたいと思ったのです。
さて、ウエディングパーティ当日。
パーティはとても楽しくなごやかな雰囲気で盛り上がっていました。ふたりが日頃からいかにみなさんに愛されているかがうかがえるようです。
いよいよパーティがフィナーレに近づこうかというとき、なんの前触れもなく司会者が「それでは皆さん、ここからおふたりの誓約式が始まりますのでどうぞ見守ってあげてください」と切り出しました。
誓約式は、ご出席のみなさんへのサプライズだったのです。
司会者の言葉を合図に、牧師の入場、つまり私が現れました。
聖歌隊はありませんでした。またオルガン奏者もいませんでした。
会場の音響設備から、新婦の用意した楽曲が入場曲として響きました。
その曲と牧師の登場が、お酒が入っていた人たちも含めたご出席の皆さんを厳粛な表情に変え、とても不思議な美しい異空間を作り出しました。
新婦と腕を組んで近づいてくるお父様。私の前で新婦を待つ新郎。
寄り添うように新郎と腕を組む新婦。どの表情も特別です。
新郎新婦が互いの愛を誓いあったあと、みなさんから自然とわき起こった拍手は、ホテルのチャペルウエディングには見られない、特別に熱を帯びた、本物の、熱い、熱い拍手でした。
おふたりを祝福しようと集まった70名以上のお友達とご家族。
パーティのなかで思いがけない形で始まった、サプライズの誓約式。
祝福と感動と……。みなさんの思いはひとつだったと思います。
式中、新郎の目頭に浮かんでいた光るものが、喜びと感謝とを表しているかのようでした。
「誓い」を立てるということは、単なるけじめではありません。
そこで感じる喜びと感謝こそ、これからおふたりが生きていく上で、たしかな宝となっていくものだとわたしは思っています。
パーティのなかの誓約式。ちょっとアバンギャルドなのかもしれませんけど
おふたりが本当に望まれた「誓い」の場をかなえることができて、わたし自身もとてもしあわせな思いに満たされています。