結婚25周年を迎えるご両親へのサプライズをしたいと、お嬢様からご相談を受けました。
お父様がご病気で治療に専念するため、その前に沖縄へ家族旅行に出かけたい。
旅行をプレゼントしたと見せかけて、現地でご両親の結婚写真を撮影し、プレゼントしたいとのご希望でした。
ご両親は、結婚式をあげていらっしゃらなかったのです。
さて、そのプロジェクト当日。
朝食がお済みになった頃を見計らって、ヘアメイクスタッフとフォトグラファーとともに、ウエディングスタッフがご宿泊先の沖縄のホテルのお部屋へ伺いました。
ご両親様は何が起こったのかまったくわからないご様子。
きつねにつままれたようなきょとんとしたお顔をなさっています。
そこで初めて「じつはね。パパ、ママ。これからおふたりの結婚写真を撮影させていただきます!」と、お嬢様が真相を説明しました。
それを聞いて、お母様のうれしそうなことったらありません。
「本当に? 本当に? 信じられない!! ウエディングドレスが着られるの? ここで?」
鏡の前で花嫁用のヘアメイクを仕上げている間じゅう、お母様はにこにこ顔です。
「おかあさん、髪はアップにしてもらおうよ。絶対に似合うと思うから」
お嬢様はお母様のブライズビューティに余念がありません。
お父様はそんなふたりをやさしい目で眺めていらっしゃいます。
「結婚した当初は貧乏学生だったし、彼女と結婚さえできればいいと思って一緒になって、ここまで来たんです。
ウエディングドレスを着せてやりたいな、と気づいたときには、もうずいぶん歳をとってしまっていたから、笑われそうで言い出せませんでした。
まさか、娘からこんな贈り物をもらうとはね……」
目を細めてコーヒーカップを傾けるお父様を、
「お父さんも、ほら、支度、支度。ちゃんとご新郎になっていただきますからね」とお嬢様が茶目っ気たっぷりにせきたてます。
「うわー、すごいよ。ママ、きれいじゃない!」
恥ずかしそうにはにかむ花嫁に向かって、お嬢様が歓声をあげました。
いよいよ撮影です。
はじめは砂浜で撮影する予定でしたが、日差しでお父様を疲れさせることがないようにと、急遽変更。海の見えるガラス張りのフロアに立っていただきました。
「はい、もう少しだけくっつきましょう。さあ、見つめ合ってみましょうか……」
フレンドリーにお声をかけながら、フォトグラファーがどんどんシャッターをきっていきます。
ちょうどそのとき、お父様の口が「きれいだよ」と動いたように見えました。
今度は、なにか決意したように、しっかりした口調でおっしゃいました。
「あなたと結婚できて本当によかった。どうもありがとう。感謝してる。最高の人生だと思います」
それはまるで二度目のプロポーズのようでもあり、チャペルで愛を誓うのにも似ていました。
花嫁様はやっとの思いで
「これからもずっと、ずっと、よろしくお願いします」と言って、大粒の涙をこぼしました。
それは、家族の愛情があふれ出るみたいな、写真の結婚式。
ご新郎様とご新婦様、そしておふたりの宝物に違いないお嬢様を、コバルトブルーの海と空が静かに見守っていました。