わたしは普段、ダイヤモンドコンシェルジュとして、店頭でエンゲージやマリッジリングをご紹介しています。
その日エンゲージリングを選びにご来店されたおふたりは、デザイン、ダイヤモンドの輝き、着け心地をひとつひとつ確認しながら、好みに合うリングを探していらっしゃいました。
「今日は、見るだけですけど」
はじめはそう言ってお越しのおふたりでしたが、何十種類もの組合せを試しているうちに、リングをお探しのお顔が徐々に真顔になるのがわかります。
その甲斐あっておよそ2時間後、プレゼントをする彼も、身に着ける側の彼女も、大満足のエンゲージリングがようやく見つかりました。
彼女は、気に入ったリングにようやく出合えたこと以上に、彼が真剣に選んでくれたことが、とてもうれしかったのだと思います。
「わたし、このリングをずっと身に着けていたい。これがいいな……」
ぽつりと彼に伝えました。
彼はしばらく下を向いていましたが、ひょっこり顔を上げると、決意したようにこう言いました。
「今日の日を記念日にしたい。温かい店員さんと僕たちにふさわしい、ピカピカのエンゲージリング。今、この場で、君にプロポーズしたい!」
彼女は一瞬とまどったようにわたしの顔を見たあと、彼を見つめて照れ笑いをしました。
じつは彼女、彼からのプロポーズの言葉を待っていたのです。
「どうもありがとう。よろしくお願いします」
そのとき、周りでリングを選んでいたお客様からも、自然と拍手がわき起こりました。
おふたりはもちろん、わたしまで、なんだかとてもうれしくて、温かな気持ちになって、涙を流しました。喜びの涙って、いいものですね。
あとから聞くと、彼はプロポーズのタイミングをずっと迷っていたとのこと。
「エンゲージリングでも見に行こうか……」
それは彼が勇気を振り絞って彼女に告げたひと言だったのです。
リングのご紹介をしていて、まさかこんな素敵なプロポーズに遭遇するなんて、思ってもみませんでした。
これから続くおふたりの長い月日を、あのエンゲージリングが見守ってくれることでしょう。
そしてリングを見るたび、おふたりは今日のプロポーズを思い出すはずです。
手をとってお店をあとにするおふたりの、しあわせそうな後ろ姿が今も忘れられません。